「それはね、後で説明するとして、まあ、焦らないで。
話には順序と言うものがあるんだから。
その前に、まずアキラの現在の実力を把握することが大事。」
「あ〜そう。」
「だいたい、アキラはだな、
ファーストサービスを思いっきり打って、たいがいはフォルト。
入っても、だいたい弾道は同じだから、スピードがあっても、
はいはい、とりあえず返しとくね、って感じで相手に返されて、
返ってきただけでビックリしてしまってあわてて大半はミス。
まったくの無策。
そして典型的なスライスサーブで、
たいていは相手が構えた所のちょうどフォアに曲がっていくだけ。
そして、セカンドサービスはと言うと、
ファーストサーブとは対照的に、
ひょろひょろのスピードのないサーブで、
とりあえず入ってくださいっていうサーブ。
そして、1ゲームに最低1本は必ずダブる。
むこうにしてみれば、ただで何もしなくて1ポイントくれるんだから、
ラッキーありがとうってなもんで楽なもんだよ。」
「悪かったな、無策で!」
黙って聞いていたアキラがムッとした顔で言い放つ。
「ちょっと・・・。レイジ興奮してきたんじゃない。
まあ落ち着いて・・・。」
ユミがまあまあと間に割って入る。
ボクはそんなアキラとユミにはおかまいなしにしゃべり続ける。
「それから、ユミのような初級者にありがちなセカンドサービス。
『下から行きまーす』ってやつ。
あれはまずいでしょ。
テニスの試合は決闘なんだぜ。
それを、「今から右のストレート行きまーす」って言って、
本当に右のストレートを出すボクサーが、どこにいるんだよ。
あれはな、上から打つふりして突然下から打てばいいんだよ。」
「出たあー、レイジのテニス決闘論。
それ、150回目。」
「それか、『上から打ちまーす』って言って下から打つってのもいいね。
相手は、『あれ、今上から打つって言って下から打たなかった?』
なんて首をかしげながら、気になっちゃって、リターンミス。」
「そんなにうまくいくか〜?
それに、どうすんのよ、頭おかしい女の子って思われたら。」
「昔、フレンチオープンでね、マイケル・チャンがレンドルとやった試合。
ファーストサービスでいきなり下から打ったんだよ。
それも、軟式テニスのようなサイドスピンサーブ。
それで、どうなったと思う?
さすがにレンドルはリターンミスしなかったけどね、
結局そのポイントはマイケルチャンが取ったんだ。
マイケルチャンはね、その試合足がつってたんだよ。
勝つためならな、何でもやる。
右腕が折れたら、左腕でやる。
左腕も折れたら、ラケットを口にくわえてでもやる。
足が動かなくなったら、地べたに這いつくばってでもやる。
それぐらいの気持ちがなくちゃダメなんだ。
だっておまえ、その一戦にはプライドがかかってんだぞ。
ユミが初級者だからってな、
相手の初級者なんかに試合後に、
『全然大したことなかったわ。楽勝よ。』
なんて言われてるのが聞こえたら、悔しくて夜も眠れなくなるだろ。」
「そりゃそうだけど、ちょっと大げさ過ぎ。」
「ボクが言いたいのはね、
ファーストサービスは強く打たなくちゃならないってのは、
ルールのどこにも書いてないってことなんだ。
いきなり下から打つのも自由。
下から打つ時は打つ前に「下から行きまーす」って、
言わなくちゃならないなんてルールはないんだ。
ルールにもないし、マナーでもない。
決闘ってのは、相手の嫌がることをやる。
相手をだます。相手が思ってもないことをやって裏をかく。
ルールの範囲内でマナーにも反しないなら、
勝つためだったら何でもやる。
だって、やるかやられるかだぜ。
プライドがかかってんだぞ。
命の次に大事なプライドがね。」
「わかった、わかった。それで、まず最初の戦術はどんな戦術?
だいたいレイジひっぱり過ぎっ!
おまえは、みのもんたかっつうの。
・・・っていうか脱線し過ぎ。
底抜け脱線ゲームじゃないんだから。」
「ごめん、ごめん。
まず、アキラに指示した最初の戦術は、
サービスゲームの最初のポイントで、
ファーストサービスでセカンドサーブを打つ戦術。」
「えっ?サービスの1本目にいきなりセカンドサーブ?」
「そう、いきなり1球目をただ入れるだけのサーブを打つ。」
「そんなんで勝てるの?
そんなことして一体どんな意味があるって言うのよ!」
「それはね、・・・」
(つづく)
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