ボクは一瞬自分の耳を疑った。
振り返るとアキラが真剣な顔で立っている。
いつも負けても全く悔しそうなそぶりも見せなかったあのアキラが、
まさかそんなことを言い出すなんて・・・
だが、アキラの目は本気だった。
いつものおちゃらけのカレの姿はどこにも無かった。
アキラの言うあいつとは、タクヤのことだ。
アキラもタクヤもボクとは高校のテニス部の同期だ。
ボクは大学の体育会テニス部に入り、
このテニスクラブでコーチをやっているが、
アキラとタクヤは別の大学に入り、
同好会を作ってテニスを楽しんでいる。
アキラとタクヤはいつも一緒の仲良しだが、
テニスのレベルでは水をあけられていた。
タクヤとボクが高校時代レギュラー争いをしていた1軍だったのに対し、
アキラは3軍といったところだったのだ。
アキラはおそらくタクヤには、
シングルスで一度も勝ったことが無いはずだ。
いったいアキラの身に何がおこったというのだ?
だいたい約束の1時間も前に1人で現れた時から、
様子がおかしいとは思っていたが・・・
とにかく、アキラは本気みたいだ。
本気でタクヤに勝ちたいという顔だ。
まあ理由はいい。
勝ちたいのなら勝たせてやる。
勝つ方法なら教えてやる。
だが、実際に勝てるかどうかはアキラ次第だ。
しかも、教える時間は30分ぐらいしかない。
「わかった、教えてやるよ。
でも、実際に勝てるかどうかはオマエ次第だぞ。」
アキラはホッとしたような表情でうなずいた。
(つづく)
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